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神戸地方裁判所 昭和49年(ワ)1101号 判決 1976年4月15日

原告

株式会社中央洋行

右代表者

陳成基

右訴訟代理人

金田稔

被告

陳成暉

外二名

被告三名訴訟代理人

久保田寿一

主文

一  被告陳成暉は原告に対し、別紙目録記載の建物を収去して同目録記載の土地を明渡し、かつ昭和四七年一一月一日から昭和五〇年六月三〇日まで一か月金一〇万円の割合による、昭和五〇年七月一日から右土地明渡ずみまで一か月金一四万円の割合による各金員を支払え。

二  被告蘇清長、同藤瀬庸夫は原告に対し、別紙目録記載の建物から退去して同目録記載の土地を明渡せ。

三  原告の被告蘇清長、同藤瀬庸夫に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<略>

第二  当事者の主張

一、請求の原因

1  原告は、昭和四四年四月ごろ訴外陳義方から別紙目録<省略>記載の土地(以下本件土地という)および同地上の車庫(以下本件車庫という)を賃貸し(その賃料は昭和四七年七月一日以降月額四万円)、以後本件車庫でモータープールを経営していた。

2  ところが、被告陳成暉は、昭和四七年一〇月上旬、本件車庫を取り毀し、本件土地一杯に別紙目録記載の建物(以下本件建物という)を建築所有して本件土地を占拠している。

3  また、被告蘇清長は、昭和四八年五月被告陳成暉から本件建物を賃借して「栄酒蔵」「栄」という店名で飲食店を経営し、被告藤瀬庸夫は本件建物に居住して、それぞれ本件建物を占有することによつて本件土地を占拠している。<以下略>

理由

一請求原因第1、2、3項記載の各事実は当事者間に争いがない。

二被告ら主張の、原告会社代表取締役陳鄭蕊が昭和四七年一〇月一日被告陳成暉に対し、本件土地車庫の賃借権を放棄したとの事実については、それに副う<証拠>は、<証拠>と対比して措信することができず、ほかに右事実を確認するにたる証拠がない(乙第一号証は、官署作成部分の成立に争いがないが、陳鄭蕊作成部分についてそれが真正に成立したものと認められない)。よつて被告らの抗弁は理由がない。

そうすると、被告陳成暉は、正当なる権限なく本件車庫を取り毀し、原告の有していた本件土地、車庫の賃借権を不法に侵害したものといわなければならない。

三およそ不動産賃借権は、対抗要件を具備している場合には、物権的効力すなわち排他的効力を有し、該賃借権者は、右賃借権を侵害する第三者に対し直接、妨害排除請求権を行使できるものであるこというまでもないが、その侵害者が不法行為者及び目的物につき有効な取引関係に立たない第三者の場合には対抗要件を具備しないでも、賃借不動産につき占有を伴う限り右妨害排除請求権を認めるを相当と解する(なお、原告主張の占有権に基づく妨害排除請求は、本訴の提起が本件土地侵害のあつた昭和四七年一〇月から二年以上経過した昭和四九年一一月二〇日であるから、民法二〇一条三項により、それ自体失当というべきである)。

これを本件についてみるに、原告は、訴外陳義方から本件土地車庫を賃借した際、本件車庫の引渡しを受けたこと当事者間に争いがないから、借家法一条により本件車庫の賃借権につき対抗力を具備し、右賃借権に基づき妨害排除請求権を有しているものであるのみならず、本件土地の賃借権についても、それが占有を伴つており、かつ、被告陳成暉の本件土地占拠が不法行為を構成するものであること前記の事実から明らかである以上、原告は、本件土地の賃借権に基づいても同被告に対し妨害排除請求権を行使できるものというべきである。

そうすると、本件土地、車庫の賃借権に基づき原告は、物権限に本件車庫を取り毀し、本件土地、車庫の賃借権を不法に侵害した被告陳成暉に対し、本件建物の収去と本件土地を明渡しを、また、本件建物を占有使用している被告蘇清長、同藤瀬庸夫に対して本件建物からの退去および本件土地の明渡しを請求できるものであり、したがつて、被告らに対し右の履行を求める原告の請求部分は正当である。

四被告陳成暉は不法に原告の本件土地、車庫の賃借権を侵害したものであるから、同被告は原告に対し、右債権侵害によつて蒙つた原告の損害を賠償する義務のあることが明らかであるところ、<証拠>によれば、原告は、昭和四七年一一月ごろ、本件土地車庫におけるモータープール営業によつて毎月金一〇万円の収益を上げていたが、被告陳成暉の前記債権侵害行為によつて右収益が上げられなくなつたこと、また昭和五〇年七月一日以降の本件土地賃料相当額は月金一四万円であることが認められ、右認定の金員は、被告陳成暉の右債権侵害行為と相当因果関係のある原告の蒙つた損害金というべきであるので、同被告に対して主文第一項後段記載のとおり右損害金の支払を求める原告の請求部分も正当である。

つぎに、被告蘇清長、同藤瀬庸夫に対する原告の損害賠償請求についてこれを考察してみるに、同被告らは、本件建物の所有者である被告陳成暉との本件建物賃貸借契約に基づき、本件建物およびその敷地たる本件土地を占有使用しているに過ぎず、そして、原告が本件土地を使用収益できないのは、被告陳成暉所有の本件建物が存在しているからであるから、被告蘇清長、同藤瀬庸夫が本件建物およびその敷地を占有していることと、原告が本件土地を使用収益(モータープール経営収益も含む)できないこととの間には、相当因果関係がないと解するを相当とする(最高裁昭和三一年一〇月二三日第三小法廷判決、集一〇巻一〇号一二七五頁参照)。してみると、被告蘇清長、同藤瀬庸夫が本件建物土地を占有使用しているという事由だけで同被告らに対し営業損ないし本件土地賃料相当の損害金の支払を求める原告の請求部分は理由がない。

五以上の次第で、原告の請求中、被告陳成暉に対し、本件建物の収去および本件土地の明渡し並びに損害金の支払を求める部分、被告蘇清長、同藤瀬庸夫に対し本件建物からの退去および本件土地の明渡しを求める部分は、いずれも正当であるからこれを認容すべきも、被告蘇清長、同藤瀬庸夫に対し損害金の支払を求める部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項前段を適用し、なお仮執行宣言についてはこれを付さないのを相当と認めて原告の右申立てを却下し、主文のとおり判決する。

(広岡保)

物件目録<略>

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